引っ越し先の候補に挙げた市の中古マンション相場を調べたら、その欄だけ空だった。安い町なのか、そもそも売り買いがないのか。空欄だけでは、どちらとも決められない。国土交通省の「不動産価格情報」を当サイトが市区町村別にまとめ直した集計では、件数が10件未満の行に統計値を出していない。空欄は「中央値を出せるほど取引が集まらなかった」という印であって、0円や取引ゼロを示す印ではない。
その空欄は珍しくない。2025年第2四半期から2026年第1四半期までの4四半期分をまとめ、市区町村と種類(中古マンション等、宅地(土地と建物)、宅地(土地))の組み合わせで4,374行を作ると、中央値と四分位が出ているのは3,020行にとどまる。残りの1,354行、およそ3割には件数と地区数しか残っていない。1,920市区町村のうちデータがあるのは1,851だが、データがある町でも種類によっては空欄になる。
空欄の手前で何件集まっていたか
統計値のない1,354行を種類別に分けると、中古マンション等が247行、宅地(土地と建物)が528行、宅地(土地)が579行になる。空欄はマンションより土地に多い。
空欄の行にも件数と地区数は残っている。北海道の例をいくつか開くと、同じ空欄でも手前の事情が違うことが分かる。
| 市区町村 種類 | 件数(取引価格情報・成約価格情報) | 地区数・最多地区の割合 |
|---|
| 室蘭市 中古マンション等 | 5件(0件・5件) | 3地区・40% |
| 北見市 中古マンション等 | 5件(4件・1件) | 2地区・60% |
| 夕張市 宅地(土地と建物) | 5件(5件・0件) | 2地区・80% |
| 岩見沢市 中古マンション等 | 5件(0件・5件) | 1地区・100% |
| 赤平市 宅地(土地と建物) | 8件(7件・1件) | 7地区・25% |
| 芦別市 宅地(土地) | 1件(1件・0件) | 1地区・100% |
出典:国土交通省「不動産情報ライブラリ」の「不動産価格情報」(2025年第2四半期〜2026年第1四半期)を当サイトが市区町村別に集計。国土交通省が公表した統計ではない。
赤平市の宅地(土地と建物)は8件が7つの地区に散っていて、あと2件あれば中央値が出ていた。芦別市の宅地(土地)は1件だけだ。相場に届きかけた行と、取引が一つしかない行が、同じ空欄で表示される。空欄を見たら、件数の欄まで読んでから判断したい。
集計期間の直近の四半期(2026年第1四半期)は公表が進行中で、集計の注記でも件数はまだ確定していないとしている。今は空欄の行に、あとから数字が入ることはありうる。
中央値があっても、町の相場とは限らない
10件を超えて中央値が出ていれば安心か、というとそうでもない。取引のあった地区が一つしかなく、そこに全件が集まっている行がある。集計ではこうした行を、その市区町村の相場ではなく特定の一団の土地の値段と位置づけている。
| 市区町村 種類 | 価格中央値(下位25%〜上位25%) | 件数・地区数・最多地区の割合 |
|---|
| 山梨県鳴沢村 宅地(土地と建物) | 880万円(588万〜2,700万円) | 36件・1地区・100% |
| 長野県原村 宅地(土地) | 790万円(370万〜1,100万円) | 29件・1地区・100% |
| 神奈川県開成町 中古マンション等 | 2,200万円(2,000万〜3,200万円) | 13件・1地区・100% |
| 福島県天栄村 宅地(土地) | 3万円(3万〜3万円) | 10件・1地区・100% |
| 山形県大江町 宅地(土地) | 220万円(100万〜530万円) | 19件・2地区・95% |
| 東京都世田谷区 中古マンション等 | 6,400万円(3,700万〜9,300万円) | 2,334件・59地区・5% |
| 東京都足立区 中古マンション等 | 3,200万円(2,300万〜4,600万円) | 1,486件・73地区・6% |
出典:国土交通省「不動産価格情報」(2025年第2四半期〜2026年第1四半期)を当サイトが市区町村別に集計。価格は中央値、括弧内は下位25%と上位25%。
鳴沢村の宅地(土地と建物)は36件で、空欄になる行よりずっと多い。ただ36件すべてが同じ地区にあり、中央値880万円の両側には588万円から2,700万円までの幅がある。村のどこでも880万円前後、という読み方は成り立たない。天栄村の宅地(土地)は10件が一つの地区に集まり、下位25%も上位25%も3万円で幅がない。この3万円は村の土地相場と呼べる数字ではなく、一つの地区で続いた取引の値段そのものだ。
世田谷区の中古マンション等は対照的で、2,334件が59の地区に散り、最も多い地区でも全体の5%にすぎない。足立区は73地区に広がり、最多でも6%だ。ここまで散らばっていれば、地区数が少なく最多地区の割合が高いという「特定の一団の土地」の条件には当たらない。一つの地区の値段が中央値を決めている行ではない。件数が厚い行の読み方は、47都道府県で取引が最も多い街を選んで中央値を並べた記事の並びで確かめられる。
半分の行は、52件以下で中央値を出している
統計値が出ている3,020行の件数を並べると、その中央値は52件になる。数字のある行の半分は、52件以下の取引から中央値を出している計算だ。江東区の2,908件や港区の2,116件のような厚みは例外で、多くの市区町村の「相場」はもっと薄い土台の上にある。
件数が少ない行では、中央値の一点より幅を持ち帰るほうが実態に近い。鳴沢村の宅地(土地)は中央値400万円だが、下位25%は45万円、上位25%は1,025万円で、同じ地区の中に20倍を超える開きがある。中央値だけを見ると、この幅は消えてしまう。
一つの行に、二つの数え方が混ざっている
件数の内訳にも目を向けたい。元データの国土交通省「不動産情報ライブラリ」には、母集団の違う二つの区分がある。不動産取引価格情報は登記をもとに当事者へ送ったアンケートの回答で、答えた人のぶんだけ入る。成約価格情報は宅建業者が仲介した成約で、仲介を通らない取引は入らない。集計の中央値は両方のレコードをまとめて出したもので、どちらか一方の相場ではない。
内訳が片方に寄っている行は多く、当サイトの集計行のうち過半は、一方の母集団だけでできている。鳴沢村の36件は全部がアンケート回答で、成約価格情報は0件。岩見沢市の中古マンション等5件は逆に全部が成約で、アンケート回答は0件だ。内訳が0件の側がある行は、その母集団を代表していない。京都府井手町の宅地(土地と建物)は13件がアンケート3件と成約10件に分かれていて、両方が混ざった行の例だ。
㎡単価は種類をまたいで比べない
価格の隣に並ぶ㎡単価は、集計の定義で分母が種類ごとに違う。中古マンション等は専有面積1㎡あたり、宅地(土地と建物)は建物込みの価格を土地面積1㎡で割った値、宅地(土地)は土地面積1㎡あたりで出している。同じ市のマンションと宅地の㎡単価を並べて高い安いを言うことは成り立たない。
集計では、面積の欄に8888や9999と入ったレコードを「上限帯以上」を表す符号として扱い、実測値とは見なしていない。そのため㎡単価と面積の計算から外し、価格と件数には含めている。件数に入っていても㎡単価には効いていない取引がある。
価格の前に見る三つの欄
市区町村の行を開いたら、価格より先に次の三つを見る。
- 件数。10件未満なら数字は出ない。出ていても数十件なら、中央値と一緒に下位25%と上位25%を読む。
- 地区数と最多地区の割合。1地区100%なら、その数字は一つの地区の値段として読む。
- 内訳。取引価格情報か成約価格情報のどちらかが0件なら、その行は片方の世界しか映していない。
この三つを見てから価格に戻ると、同じ「中央値」でも重さが違って見える。数千件が数十の地区に散る東京の区の数字と、一つの地区の36件から出た村の数字は、並べて比べる相手ではない。東京23区の㎡単価を並べ直した記事の数字が落ち着いて読めるのは、この厚みがあるからだ。相場が出ていない町は、相場が安い町とも取引が消えた町とも決められない。分かるのは、中央値を出せる件数に届かなかったことだけだ。そう読み替えるだけで、空欄の意味は変わる。